死後の世界を仏教はどう捉えるのか
先日、ご門徒の方から「死後の世界はあるのでしょうか」と尋ねられました。そこで私は、「お釈迦さまは、その問いにはお答えにならなかったそうです」とお話ししました。すると、「仏教は死後の話をはぐらかすのですか」と話題が移っていきました。
しかし、この話には続きがあります。
お釈迦さまに「死後の世界はあるのか」と尋ねた人は、その後も二度、同じ問いを重ねたそうです。そして三度目に、お釈迦さまはこうお答えになったと伝えられています。
「その問いは、問いになっていない」
仮に「ある」と答えたとしても、その証明には際限のない論証が必要となります。反対に、「ない」と答えたとしても、同じように無限の論証を尽くさなければなりません。結局のところ、最終的な答えは個人の感想や解釈に行き着くのでしょう。
仏教では、そのような終わりのない議論を「戲論(けろん)」、すなわち“戯れの議論”と呼ぶそうです。
それでは、本当に大切なことは何でしょうか。
それは、死後の世界が「あっても」「なくても」、今この人生を十分に生き切ることではないでしょうか。今生を満足して生きることができれば、死後の世界の有無に振り回されることが小さくなります。
言い換えれば、死後への不安とは、現在の不満足の現れでもあるのでしょう。
そして、その不安は「今を満たして生きたい」という、私たちの心の奥底からの呼び声でもある。その声は、親鸞聖人がお示しくださった「大悲招喚の勅命」のようにも感じられるのです。
合掌。
浄土への往生
先月、春彼岸法要が勤まりました。法要後には「お花見」と称して、お弁当やお酒、スイーツがふるまわれました。
お弁当は坊守が半分ほど仕上げ、スイーツは若坊守がほとんどを作り、さらにご門徒の女性方にもお手伝いいただきました。
そんな中、お斎の席での出来事です。
ある方が若坊守に、「ここにあなたのお弁当を用意しているから、今のうちに食べておきなさい」と声を掛けてくださったそうです。ご自身たちはまだ食べておられないにもかかわらず、こちらを気遣ってくださる。その心遣いが本当にありがたいことでした。
さらにその方は、「前坊守さんのお弁当も用意しているから、呼んできて食べさせてあげて。忙しくて食べる暇もないでしょう」と、そこまで気を配ってくださったそうです。
ところが妻は、「申し訳ありません。先ほど本堂へ行ったら、母はすでに座って食べ始めておりました」と、少々気まずそうに報告したのでした。
その晩、私は「まだお加勢くださっている方々も食べておられないのに、どうして先に座って食べるのだろう」と、母を批判する思いを抱いていました。
しかし、しばらくして考え直しました。
母にとっては、準備をすることも大切な役目ですが、皆さんと一緒に座って話をすることもまた、大切なお役目だったのかもしれません。
そんなことを思いながら、ふと、ある言葉が心に浮かびました。
「人の悪き事は、よくよく見ゆるなり。我が身の悪きことは覚えざるものなり。」
私は香春のお寺に戻る前、博多のお寺に勤めておりました。そこは約1600軒のご門徒をお預かりする大きなお寺でした。
当然、住職・副住職・私の三人だけではすべてのお参りを勤めることはできません。そのためお盆になると、7月盆の地域のお寺さま方にお加勢をお願いし、総勢18名ほどの僧侶で、4日間かけて1600軒をお参りしていました。
そんなある年のお盆のことです。
私も朝7時に寺を出発し、40軒近くをお参りして、くたくたになって寺へ戻りました。そしてシャワーを浴び、着替えを済ませてから、お加勢のお坊さん方の待機部屋へ向かいました。
襖を開けると、1600軒を預かるその寺の住職が、まだ衣姿のまま、帰ってきていないお加勢のお坊さん方を静かに待っておられたのです。
その姿を見た瞬間、「しまった」と思いました。
すると住職が冗談まじりに、
「僕より先にシャワーを浴びて着替えてくるとは、だいぶ偉くなったね」
と声を掛けられました。
朝から晩まで懸命にお参りしたという思いが、自分は遠方から来てくださった方々に支えられている身である、という大切なことを見失わせていたのです。
私たちの眼は、人の欠点や問題はすぐに見つけます。しかし、自分の間違いや至らなさには、なかなか拾うことができません。
母の姿は、実は私自身の姿でもあり、そしてまた、私たち一人ひとりの姿でもあるのでしょう。
そんな時、念仏をいただくところに、「人の悪き事は、よくよく見ゆるなり」という言葉を自らに向けて受け止め、超え出てゆく道が、かすかに開かれてくるのではないでしょうか。
そのような歩みを大切にされたのが、私たちの諸先輩方であり、その歩みそのものを「浄土への歩み」といただいていくのかもしれません。
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