タイパ・コスパと別府旅行 ― 子どもの笑顔に照らされた気づき

夏の別府温泉を舞台に、家族が電車を眺めながら笑顔で過ごす様子を描いたイラスト

八月のことです。お盆参りが終わって、しばらくお参りのない日が続くので、奥さんと子ども達を連れて「別府にでも行こうか」と話をしておりました。

ところが、インターネットで宿を調べてみると――近年の物価高やインバウンドの影響でしょうか、とんでもないような金額ばかりが並んでいます。「こんな金額まで払って泊まるかい? それこそタイパが悪い、コスパが悪いばい」と奥さんと話しておりました。

ここで言う「タイパ」とは、タイムパフォーマンス(Time Performance)の略で、かけた時間に対してどれだけの満足を得られたかという考え方です。「コスパ」はコストパフォーマンス(Cost Performance)の略で、支払ったお金に見合う価値があるかどうかを指します。どちらも現代社会では、仕事や趣味、旅行、さらには人間関係にまで用いられるようになった言葉です。

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一日目 ― “元を取る”満足感

そんな高い金額も、八月十六日まで。十七日以降になるとお盆休みが終わって旅行客が減るのか、強気だった値段が一気に“たたき売り”状態に。「平日になると、こんなにも金額が下がるのかぁ」と奥さんと驚きました。

さらに、これまでは下の娘が小さかったので「泊まる所とご飯を食べる場所は同じ建物の中でないと大変」と言っていました。しかし、もう二歳半。「外に食べに行ってもいいのではないか」と話し合い、素泊まりで検索し直すと、さらに安い宿がたくさん出てきました。

その中で、別府駅から徒歩五分、築二年、四人素泊まりで一万三千円というホテルを発見。「これやったらコスパが良いね」と話して予約し、一泊二日の別府旅行へ出かけました。

タイパ重視の旅

いつもはぼんやり出発して昼前に着き、そこから入場料とフリーパスを支払って入場。少し遊ばせたらお昼、しかも食事は割高。「コスパが悪いね」と言いながら食べさせ、子どもはゆっくり食べるので“タイパが悪い”。そのうえ昼寝の時間になり、早々に退散――そんな繰り返しでした。

そこで今回は、「払う分だけ元を取ろう!」と意気込み、朝八時にお寺を出発。城島高原へ向かい、開園と同時に入園。一日中しっかり遊び、「今回は払った分だけ元を取った!」と満足して帰りました。

夜はホテル近くの居酒屋へ。「ホテルでわざわざ食事をとらなくても、別府駅周辺は安くて美味しい店がいくらでもあるんだ」と喜びながら、充実した一日を終えました。

二日目 ― 「楽天地」より電車が楽しい

翌日は、別府の遊園地「楽天地」に行く予定。息子もとても楽しみにしていたのですが、当日の朝になると「遊園地には行かない」と言い張ります。「せっかく別府に泊まって『楽天地』の近くにいるのだから、行かないともったいないやろ」と説得しても、「行かない」の一点張り。

「じゃあ何がしたいの」と尋ねると、「電車に乗る」と言います。前日、居酒屋に行く途中で別府駅に立ち寄り、電車を見たのが印象に残っていたようです。

しかし、別府駅を通るのは日豊本線――香春駅を通る電車とほとんど同じ。「それなら香春で乗ろう」と言っても首を縦に振らず、結局、別府駅から東別府駅まで一区間だけ電車に乗って、また別府駅に戻ることにしました。

ところが、その日はダイヤが乱れており、戻ってくるまでに時間がかかり、駅に着いた頃にはお昼前。昼食をとると午後一時。「楽天地」に行っても元が取れないと判断し、代わりに近くの公園で遊ばせ、帰りにアフリカンサファリに寄って帰りました。

タイパもコスパも超えて

私は一日目の満足感が強く、「二日目はタイパもコスパも悪かったな」と納得がいきませんでした。しかし振り返ってみると――子ども達は、別府駅から東別府駅までの短い電車の中で本当に楽しそうにしていました。何もない東別府駅で家族四人だけでぼんやりしていた時間の方が、子ども達の表情は豊かでした。

もともと別府旅行は、子ども達に“普段と違う経験をさせたい”、 “普段と違う表情を見たい”と思って企画したものでした。それなのに、いつの間にか私は「タイパとコスパをいかに上げるか」という大人の習慣に囚われていたのです。

今の世の中では、「いかに効率よく、いかにお得に」が善とされ、タイパやコスパがまるでご本尊のように大切に掲げられています。しかしそれもまた、一つの“迷い”であり、“執着”なのかもしれません。今回の別府旅行は、そんな私自身の迷いを照らし出してくれた旅となりました。


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